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ainobeat

主に記録用

日本物の雪組 「星影の人」

 本来はお芝居を楽しみに博多へと乗り込んだはずだったのに蓋を開けたら生まれ変わったファンシーガイに衝撃を受けて、その興奮のあまりショーの感想の方を先に書くという事態に陥ってしまった。でも冷静になって物語やセリフの意味を考える時間が必要だったからよかったかも。

 

 そんなこんなでヅカファン歴半年のド新規が初めて日本物のお芝居を観劇してきた。一般的によく言われる“日本物の雪組”を体感できたことにまず感動だったし、日舞の美しさと所作の繊細さにはうっとりしてしまった。そして殺陣の力強さに驚いた。袴できびきびと動いて舞台上を颯爽と走り抜ける様はとてもカッコよかった。特にプロローグの新選組の登場は圧巻。華やかでしっとりとした祇園の香りを娘役さんたちの舞で展開しているなか、その背後から整列した隊士たちが堂々と登場するせり上がりは毎回ゾクゾクする。そしてそんな隊士たちの間を颯爽と駆け抜けてくる沖田の登場シーンも素敵だった。(1階席から見てると小さいからいつの間にいたの現象が起きる)日本物といえどもプロローグからこんなにも心を掴まれるとは思っていなくて驚いた。

 星影の人はもちろん見たことがなくて話も漠然としか把握してなかったから初めての日本物でちゃんと理解できるか不安だったんだけど、演じてるのが贔屓の組だったからか誰が何役かを認識したうえで見れて入りやすかった。でもストレートプレイではなくあくまでもミュージカルだからお芝居の中で発するセリフだけじゃなくて曲の歌詞も心情として受け取るのが難しくて、私は1回の観劇じゃそのスキルを習得できなかった。(なので複数回観ることをオススメします♡)この最初の難関さえ攻略できれば楽しみ方が広がって作品への理解も深まるんだろうと思う。

 

 早霧さんの沖田総司はルパンに続いて「ハマり役」という言葉が似合うくらいピッタリだった。こうもハマり役が続くと、早霧さんに似合う役を引き寄せる力が強いというよりも、早霧さん自身が役になる力の方が爆発的に凄いのではないかと思ってしまう。一見これは無理だろう…と思っても、いざ幕が開いて言葉を発するともうその役にしか見えない。二枚目も三枚目もモノにしてしまう。そして今回は下級生が演じている役よりも若い沖田総司をきちんと成立させている。つくづく「早霧せいな=技巧役者」の底知れぬ芝居心に平伏する。

 沖田さんは新選組一番隊組長という肩書きで土方からも絶大な信頼を寄せられている一流剣士でありながらも、実際は青年と呼ぶにはまだ早いような澄んだ目をした聡明な少年で、いつも無邪気で明るくて空気を読むのも上手いから新選組の中でもその周囲との間でも潤滑油的な役割を自ら担っているような人。そしてすぐに「困るなぁ~」と首の後ろをポリポリ掻く可愛らしい癖も。そりゃあみんなから可愛がられるよなっていう物凄い説得力。だからこそこれからの悲劇的な展開が際立つようになっていて、その描き方がとにかく美しかった。そしてそれを演じる早霧さんもまたとても美しかった。

 

 動乱の時代の中でも沖田の周りだけは常に穏やかで温かい空気が流れていて、とにかく尊敬する師や仲間と一緒に任務を成し遂げていることが幸せでそれ以上は望んでないし、もちろん自分が病気だなんて少しも思ってない。そんな中で玉勇さんと出会って恋をして、沖田の世界はますます輝いていく。出会いの雨の場面やあいびきの場面の二人のやりとりはちょっとくすぐったいくらいに初々しくて、みんなが囃し立てる様はとても微笑ましい。これがずっと続けばいいのに…と思わずにはいられなかった。

 それが治る見込みのない病気に気づいて余命を知ったことでその輝きが曇り始める。この繊細な心情の移り変わりが表面的にはあまり感じられないけど歌と舞踊で総司の心の内として表現されていて、同じ「生きるときめき」も歌う場面によって明るい歌にも悲しい歌にも聞こえる。芝居の面白さと作品の奥深さを改めて感じた。

 けど宣告の場面ではその心情の変化がお芝居で感じられて、自分があとどれくらい生きられるのかと迫るときは眉間にしわを寄せて若干構えるように険しい表情。それがあと2、3年と聞かされるとすーっと何かが抜けたように穏やかに、それでいてあの澄んだ瞳からは動揺が伝わる、お見事としか言いようがない変化。孤独を明るさで隠して生きてきた沖田だから自分の余命に対しても明るさで隠そうとする。それがなんとも悲しくて。この場面三人しか出ていないけど、だからこそその繊細なお芝居を集中して見れるというか。この作品全体を通して言えることなんだけど、無駄なものが何一つないから他に気が散ることもなくて、真っ正面から芝居や歌や舞踊を受け止めている感覚だった。心が洗われるような心地よい静けさと内からこみ上げる熱さ。日本物の良さってこういうところなんだろうか。

 あと個人的に好きなのは沖田の喀血のシーン。早霧さんって殴られたり蹴られたり苦しむお芝居が天下一品だと思ってるんだけど(語弊)、今回も斬られて死ぬことはないけど病を患ってから咳をしたり目眩に襲われたりっていうお芝居も堪能できる。咳にしても、ただの咳と喀血とできちんと演じ分けをしていて、舞台上では血糊を使えないからこの使い分けが非常に重要なんだよね。さすが。

 嵐山の場面で玉勇さんの説得を振り切って残りの時間を剣の道に捧げると告げる芯の強さ。でも実際にはそんなに強くないから玉勇さんに一緒に生きてほしいと告白するその二面性がたまらない。新選組の仲間にも見せてこなかった弱い部分をさらけ出せる人ができたんだなってもう涙が止まらない。意味ありげなあのセリフも沖田と玉勇さんのセリフとして受け止める。(盲目御免)

 そして玉勇さんとの別れの場面。もう切なくて切なくて、今思い出しても涙が出てくる。宝塚の作品はたとえ主役とヒロインが死別しても天国でまた一緒になって最後にデュエットダンスを踊るっていう展開じゃない?だから今回もそういう最後を想像していたんだけど、この作品にはそういった見せ場がなく、別れたらそのまま。その別れを受けて沖田がこの先どうやって生きていくかをエピローグの歌とセリフのない芝居から観客が想像して沖田の人生を描いていく。なんだかとても後味の良い幕引きだった。またこのときの沖田の涙が気持ちを煽るのよ。絶望の中にいるはずなのに涙の跡と瞳はキラキラと輝いていて。幕が下りても香りが残って余韻を楽しめる、どこまでも素敵な作品を見させていただいたと満足感でいっぱい。

 

早霧さんの感想だけで結構長くなってしまったからあとはざっくりと。

 

 まず玉勇さんなみゆちゃん。大人っぽい役はお手の物だと思っていたけど、プロローグで声を発した瞬間に衝撃が走った。紛れもなく芸妓さんだった。つい先日までフランス王妃だったとは思えない全くカラーの違うヒロインになっていた。色気がありながらもみゆちゃんらしい可愛らしさも残っていて、とても魅力的な大人なヒロインだった。奥手な沖田さんに控えめながらも積極的にアプローチする玉勇さんはもうそのままみゆちゃんを見てるみたい。

 玉勇さんもまた寂しさや孤独を隠しながら生きている人で、それが沖田さんと出会って一筋の希望のような存在になっていく。そんな沖田が病に倒れてしまうと「何であの人が」「外を走らせてあげて」「あの人を私に返して」と涙しながら切実に歌い上げる。この切なさと力強さが素晴らしくて涙が止まらなかった。京言葉に京舞踊に着物の所作と、こなさなきゃいけないことがたくさんで本当に大変だっただろうけど、きちんと役として生きていて世界に嵌っていた。これから雪組公演を観に行くと毎回みゆちゃんに衝撃を受けるんだろうなぁと観劇2作目にして思い知った。

 

 土方歳三のみつるさんは今回初めて生で拝見したんだけど、あのどっしりとした構えと男前な顔と声に、みつるさぁ~ん♡と乙女組みしてうっとりしたくなった。(実際はそんな勇気なかった)全体を通してしっかりと場を締めていて、沖田さんが醸し出す青春の爽やかな空気とは全く違う、あの時代の重さみたいなものを土方さんの存在一つで見せていた感じ。そんな鬼の副長も沖田さんには素を見せていて、屯所でのやりとりは十分にみつちぎ萌えをいただいた。あいびきの最後に隊士たちが沖田をからかう場面では土方が沖田の変化に気づいて後をつけるよう山崎に指示した、っていうセリフでの説明があって、でも説明だけでその指示した場面はお芝居の中では描かれてないんだけど、その土方の心情やどのあたりで気づいたかっていうのが想像の中で場面が浮かぶ。それくらいあの屯所でのやりとりは二人の関係性が強く印象づけられてる。とにかくカッコイイ土方さんだった。

 

 カッコイイといえばなぎしょさんの山南敬助。正直ここまで完成度高めてくるとは思ってなかったから驚いた。新選組の前身である浪士組の頃から幹部として土方や沖田たちと一緒にやってきたのに、それが明里と出会って考え方や見え方が変わって組の在り方に疑問を抱いていく。新選組側から見ていると心が離れていくようで悲しいんだけど、一貫して山南が微塵の迷いもなく前を見据えているからそういう生き方でも彼にとっては幸せだったのかなと納得してしまう。山南もまた沖田を可愛がっていて沖田も兄のように慕っているという中の人だったらありえない関係性も(笑)お芝居の中でよく表れていた。貫録に関してはまだ伸びしろがあるにしても、山南が内に秘めている他の隊士たちとは違うものがお芝居の中で感じられた。

 

出てくる人みんなが愛しくて、どの登場人物の視点から見ても楽しめる作品だった。だから思うことはたくさんあるんだけど漠然としてることもあってさすがに全部は書けないからこのへんで。前作のルパン三世からのこの振り幅の広さには脱帽。でもこういう芝居勝負な作品も素晴らしかった。日本物の雪組雪組の日本物を観劇できて大満足だった。博多は遠いって人が多いかもしれないけど、ぜひ生で観てほしい公演。私は次の観劇が楽しみでしょうがないです♡